前回の記事では、
親の判断能力が低下すると、預金・証券・不動産・生命保険などを自由に動かせなくなる可能性があること
そして、何も準備をしていなかった場合には、
成年後見制度
という方法があることをご紹介しました。
成年後見制度は重要なセーフティーネットです。
ただし、
- 家族が必ず成年後見人になれるわけではない
- 本人の財産を自由に使える制度ではない
- 専門職が後見人になれば継続的な報酬が発生する場合がある
- 一度始めると、特定の手続きが終わっただけでは終了しない
といった特徴もあります。
そこで今回は、
本人が元気なうちにできる認知症・資産凍結対策
について、
できるだけ簡単で費用の安いものから
順番に整理してみます。
すべての家庭が家族信託まで必要なわけではない
認知症対策というと、
「家族信託をした方がいい」
「任意後見契約を作っておいた方がいい」
という話になりがちです。
もちろん、必要な家庭もあります。
ただ、
最初から何十万円もの費用をかける必要がない家庭もたくさんあります。
まずは、
どんな財産を持っていて、認知症になったら何に困るのか
を確認することが大切です。
そのうえで、できるだけ簡単な方法から考えてみます。
対策① 銀行の「代理人予約サービス」を確認する
最初に確認したいのが、
銀行の代理人予約サービス
です。
これは本人が元気なうちに、
「将来、自分で銀行取引ができなくなったら、この家族に任せる」
と代理人を登録しておく制度です。
例えばみずほ銀行では、本人の意思確認ができなくなった後、所定の診断書等を提出することで代理人取引を開始できます。
対象となる手続きには、
- 円預金の入出金・解約
- 外貨預金
- 投資信託
- 公共債等の売却・解約
- 通帳再発行
- 住所等の変更
- 残高証明
などがあります。
みずほ銀行では利用手数料は無料ですが、診断書取得費用などは本人負担です。
一方、すべての銀行に同じ制度があるわけではありません。
金融機関によって、
- 制度の有無
- 対象となる資産
- 代理人になれる人
- 必要書類
- 利用料金
などが違います。
そのため、まず親が利用している銀行に、
「将来、認知症などで本人が取引できなくなった場合に備えて、元気なうちに家族を代理人として登録できる制度はありますか?」
と確認してみるのがおすすめです。
普通の「代理人キャッシュカード」とは違う
似た制度に、
代理人キャッシュカード
があります。
これは家族用のキャッシュカードを正式に発行してもらい、ATMから出金できる仕組みです。
非常に手軽ですが、
本人が将来認知症になった後まで代理権が保証される制度とは限りません。
そのため、
普通の代理人カードなのか
それとも、
将来の判断能力低下を想定した代理人予約制度なのか
を分けて確認することが重要です。
預金が1,000万円を超えるなら銀行破綻リスクも考える
認知症とは別の話ですが、多額の預金がある場合には、
金融機関が破綻した場合のリスク
も考えておきたいところです。
利息の付く普通預金や定期預金などは、
1預金者・1金融機関につき、元本1,000万円+破綻日までの利息等
まで預金保険制度で保護されます。
1つの金融機関に1,000万円を大きく超える預金がある場合には、主に次の3つの方法があります。
① 複数の銀行へ分散する
例えば3,000万円なら、
A銀行 1,000万円
B銀行 1,000万円
C銀行 1,000万円
と分ける方法です。
ただし銀行を増やしすぎると、
認知症になったときの財産管理が複雑になる
というデメリットもあります。
代理人予約制度も、それぞれの金融機関で確認しなければなりません。
② 決済用預金を利用する
決済用預金は、
- 無利息
- いつでも払い戻しできる
- 振込みなどの決済サービスに利用できる
という条件を満たした預金です。
決済用預金は、
金融機関が破綻しても全額保護
されます。
ただし利息は付きません。
③ 個人向け国債を利用する
当面使わない安全資金については、
個人向け国債
も選択肢です。
個人向け国債は銀行預金ではありません。
購入した銀行や証券会社が破綻しても国債の権利は保護され、元本や利子は国が支払います。
また、原則として発行から1年経過後であれば中途換金できます。
そのため、
すぐ使う可能性がある生活・介護資金 → 普通預金
当面使わない安全資金 → 個人向け国債
という分け方も考えられます。
ただし認知症対策として、
代理人予約制度で個人向け国債の中途換金まで代理できるのか
は金融機関ごとに確認しておく必要があります。
対策② 生命保険は「契約者代理制度」を確認する
生命保険にも、認知症後に備える仕組みがあります。
今回確認したいのが、
契約者代理制度
です。
本人が意思表示できなくなった場合に、あらかじめ指定した家族等が、
- 保険の解約
- 減額
- 契約者貸付
などを代理できる制度です。
「代理人が解約できる」だけでは不十分
もう一つ確認したいのが、
解約返戻金を誰の銀行口座で受け取れるのか
です。
例えば、
親が認知症
↓
子どもが生命保険を代理解約
↓
解約返戻金1,000万円が親本人の銀行口座へ
↓
その銀行口座から出金できない
となれば、介護費のために保険を解約したのに、そのお金を使いにくくなる可能性があります。
保険会社によって取扱いが違います。
| 保険会社 | 契約者に代わって解約等 | 代理人名義口座で解約返戻金等を受取 |
|---|---|---|
| ソニー生命 | ○ ※対象契約 | ○ |
| 住友生命 | ○ ※対象契約 | ○ ※対象契約 |
| メットライフ生命 | ○ ※ご家族登録制度 | ○ ※解約・減額は1回2,000万円まで |
| 日本生命 | ○ ※対象商品・契約 | ○の場合あり |
| 明治安田生命 | ○ ※対象契約 | 原則、契約者本人名義口座 |
例えばソニー生命では、契約者代理人は解約・減額・契約者貸付等を行うことができ、代理人本人名義の口座も指定できます。
メットライフ生命でも、ご家族登録制度により登録家族が解約等を行え、解約返戻金等を登録家族名義口座で受け取ることができます。
解約・減額による支払額は1回2,000万円までです。
ただし、
商品、契約時期、契約形態等によって取扱いが異なる場合があります。
現在加入している契約について、個別に保険会社へ確認することが重要です。
「指定代理請求制度」とは別
似た制度に、
指定代理請求制度
があります。
こちらは主に、
- 入院給付金
- 手術給付金
- 介護保険金
など、本来本人が請求する保険金・給付金を、本人が請求できない場合に家族等が代理請求する制度です。
つまり、
契約者代理制度 → 保険契約そのものの解約・減額等
指定代理請求制度 → 保険金・給付金の請求
という違いがあります。
認知症による「資産凍結対策」という意味では、
まず契約者代理制度を確認する
ことがポイントです。
対策③ 生前贈与
もっとシンプルな方法として、
元気なうちに子どもへお金を贈与する
方法もあります。
贈与が成立すれば、そのお金は子どもの財産です。
そのため、その後親が認知症になっても、親の判断能力低下によってその財産が動かせなくなることはありません。
メリット
- 贈与した財産は親の認知症による資産凍結の影響を受けない
- 相続税対策になるケースもある
ただし、
生前贈与をすれば必ず相続税が安くなるわけではありません。
贈与税や相続税のルールを確認する必要があります。
生前贈与の大きなデメリット
一番大きいのは、
贈与した瞬間から、自分のお金ではなくなる
ことです。
例えば、
「介護が必要になったら、この1,000万円を私のために使ってね」
と子どもへ渡したとしても、一度贈与すれば法律上は子どもの財産です。
- 本当に親のために使ってくれるか
- 子どもが先に亡くなったらどうなるか
- 子どもが借金などの問題を抱えたらどうなるか
- 将来、親子関係が変わらないか
といったリスクがあります。
私自身も、
自分のお金を完全に子どもの財産にしてしまうことには、かなり抵抗を感じると思います。
よほど強い信頼関係があり、
「もう自分のお金ではなくなっても問題ない」
と思える財産でなければ、簡単にできる方法ではないでしょう。
対策④ 任意後見
前編で紹介した法定後見のデメリットを考えると、
「それなら元気なうちに、自分で後見人を決めておけばいいのでは?」
と思われるかもしれません。
それが、
任意後見制度
です。
本人が元気なうちに、
「将来判断能力が低下したら、長男に任意後見人になってもらう」
などと決め、公正証書で契約します。
実際に判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見契約の効力が生じます。
任意後見のメリット
① 将来の後見人を自分で決めておける
法定後見では、誰を成年後見人等にするかを家庭裁判所が決めます。
一方、任意後見では、
本人が元気なうちに信頼できる家族などを任意後見人として指定
できます。
② 任意後見人自身の報酬を決められる
任意後見人への報酬は契約で決められます。
家族を任意後見人として、
任意後見人自身の報酬を0円
とすることもできます。
任意後見のデメリット
① 家族だけで自由に財産管理できるわけではない
任意後見が開始すると、
任意後見監督人が必ず選任されます。
任意後見人は監督人の監督を受けます。
そのため、
「家族を任意後見人にしたから、親のお金を自由に使える」
という制度ではありません。
あくまで、
本人の利益のために財産を管理する
必要があります。
② 報告などの手間がかかる
任意後見人は、任意後見監督人の指示に従い、
- 財産の状況
- 収支
- 後見事務の内容
などを定期的に報告します。
家族にも一定の事務負担があります。
③ 任意後見監督人の報酬が継続的にかかる
家族を任意後見人として無報酬にしても、
任意後見監督人は必ず付きます。
家庭裁判所が公表している一つの目安では、
- 財産5,000万円以下:月1~2万円程度
- 財産5,000万円超:月2.5~3万円程度
です。
全国一律の固定料金ではなく、実際の報酬は家庭裁判所が決めます。
任意後見の初期費用
任意後見契約の公正証書には、
- 公正証書作成手数料:13,000円
- 登記嘱託手数料:1,600円
- 法務局への収入印紙代:2,600円
- 郵便代・証書の枚数加算等
が必要です。
そのため、自分たちで手続きを進める場合、基本的な実費は2万円前後~が一つの目安です。
司法書士や弁護士等へ契約内容の設計や書類作成を依頼すれば、別途専門家報酬がかかります。
対策⑤ 財産管理が複雑なら「家族信託」
任意後見では自分で任意後見人を指定できます。
ただし成年後見制度の一種なので、
本人財産の管理には一定の制約があります。
もっと柔軟に財産管理を続けたい場合に候補になるのが、
家族信託(民事信託)
です。
家族信託は、
「財産額が多い人」より、「財産管理が複雑な人」
に向いていると考えると分かりやすいと思います。
例えば、
- 賃貸アパートやマンションを持っていて、修繕、賃貸、建替え、売却などを継続的に行う必要がある
- 株や投資信託などを保有していて、必要に応じて証券を売却して生活費を作りたい
- 認知症後も家族が柔軟に財産管理を続けたい
といったケースです。
家族信託の仕組み
例えば、
父=委託者・受益者
長男=受託者
として、
「父の財産を、父のために長男が管理する」
という契約をします。
経済的な利益を受けるのは父のままですが、
財産を管理・処分する権限を長男へ託す
というイメージです。
本人の判断能力が低下した後も、信託契約で決めた範囲内で受託者が財産管理を続けることができます。
家族信託のメリット
① 本人が認知症になっても、信託した財産を家族が管理できる
家族信託をしておけば、本人の判断能力が低下した後も、
受託者である家族が、信託契約で定めた範囲内で財産管理を続けることができます。
例えば賃貸不動産を信託しておけば、
- 家賃を受け取る
- 管理会社とやり取りする
- 修繕する
- 賃貸借契約に対応する
- 必要であれば売却する
といった管理を続けやすくなります。
② 家族を中心に財産管理できる
法定後見では、誰が成年後見人になるかを最終的に決めるのは家庭裁判所です。
一方、家族信託では、
本人が元気なうちに、誰へ財産管理を任せるのかを決めることができます。
例えば、
「この賃貸アパートの管理は長男に任せる」
といった形で、信頼できる家族を受託者にすることができます。
③ 信託する財産を選べる
家族信託では、
自分の財産すべてを信託する必要はありません。
例えば、
- 賃貸不動産だけを信託する
- 自宅と一定額の預金だけを信託する
- 管理が必要な財産だけを信託する
といった設計も可能です。
つまり、
認知症後に管理できなくなると特に困る財産だけを対象にする
という柔軟な使い方ができます。
④ 成年後見より柔軟な財産管理ができる
家族信託の大きな特徴の一つが、
本人が元気なうちに決めた信託契約の内容に沿って、認知症後も財産管理を続けられること
です。
例えば、
- 賃貸不動産の修繕・建替え
- 不動産の売却
- 証券会社が対応している範囲での有価証券の管理・売却
などを行えるように設計することができます。
法定後見では本人財産を守ることが強く求められるため、積極的な財産運用には大きな制約があります。
その点、
将来どのように財産を管理してほしいのかを元気なうちに決められる
ことは、家族信託のメリットです。
⑤ 成年後見のように毎月必ず専門職報酬が発生するわけではない
家族信託では、
成年後見人や任意後見監督人のように、制度上必ず毎月専門職へ報酬を支払う仕組みではありません。
例えば長男を受託者として無報酬にし、専門家による継続サポートや信託監督人を付けなければ、
固定的な月額報酬が発生しないケース
もあります。
家族信託のデメリット
① 初期費用が比較的高い
家族信託は、銀行の代理人予約などと比べると、
最初にかかる費用が高い
ことがデメリットです。
専門家へ制度設計や契約書作成などを依頼する場合、
全体で50万~100万円程度
になるケースが民間相場の一つの目安として紹介されています。
不動産を信託する場合には、登記に関する費用なども必要になります。
② 契約設計が複雑
家族信託では、
- 誰を受託者にするのか
- どの財産を信託するのか
- 受託者にどこまで権限を与えるのか
- 本人が亡くなった後、信託財産をどうするのか
などをあらかじめ決める必要があります。
内容によっては税務・法律・登記など複数の分野が関係するため、
家庭だけで適切な契約を作るのは難しい場合があります。
③ 信託していない財産には効果がない
家族信託の効果があるのは、
信託契約の対象にした財産
です。
例えば賃貸不動産だけを信託していて、普通預金を信託していなければ、その普通預金については家族信託の仕組みでは管理できません。
そのため、
どの財産を信託しておく必要があるのか
を事前に整理しておく必要があります。
④ 本人自身に関するすべての手続きを代理できるわけではない
家族信託は、
財産管理のための制度
です。
そのため、
- 老人ホームなどへの入所契約
- 介護サービスの契約
- 本人自身に関するさまざまな法律行為
まで、すべて受託者が代理できるわけではありません。
つまり、
家族信託をしておけば成年後見が絶対に不要になる
というわけではありません。
本人自身の契約や身上面まで幅広く代理してもらいたい場合には、任意後見などを組み合わせて検討することもあります。
特に不動産との相性がいい
例えば父が賃貸アパートを所有している場合、認知症になっても、
- 家賃を受け取る
- 管理会社とやり取りする
- 修繕する
- 賃貸借契約へ対応する
- 必要なら売却する
といった管理が必要です。
家族信託で必要な管理・処分権限を受託者へ託しておけば、本人の判断能力が低下した後も、信託契約で定めた範囲内で管理を続けやすくなります。
株や投資信託にも対応できる場合がある
証券会社によっては、有価証券を家族信託で管理できる仕組みもあります。
例えば楽天証券には、IFAコース向けの家族信託サービスがあります。
ただし、
通常の証券口座とまったく同じように、すべての商品を自由に売買できるわけではありません。
商品ごとに取扱条件があり、家族信託口座でできる取引には制限があります。
そのため、
何を保有し続けたいのか、何を売却できればよいのか
まで考えて設計する必要があります。
現金だけなら家族信託まで必要?
現金も家族信託の対象にできます。
例えば不動産を信託する場合には、
- 固定資産税
- 修繕費
- 管理費
などを支払うため、一定の金銭も一緒に信託することがあります。
一方、
財産のほとんどが銀行預金で、「介護費や生活費を家族が出せればよい」というだけなら、銀行の代理人予約制度で足りるケースもあります。
家族信託は、
不動産や証券など、認知症後も柔軟・継続的な管理が必要な財産がある家庭ほど検討する価値が高い
と考えると分かりやすいでしょう。
結局どの制度がいい?費用と手間を比較
大まかに整理すると次のようになります。
| 対策 | 初期費用の目安 | 継続費用の目安 | 手間 | 主な対象 |
|---|---|---|---|---|
| キャッシュカード・暗証番号の共有 | 0円 | 0円 | ★ | ATM中心。正式な代理制度ではない |
| 代理人キャッシュカード | 無料~少額の例 | 原則0円 | ★ | ATM取引中心 |
| 銀行の代理人予約 | 無料~1万円台の例 | 無料の銀行もあるが、年額費用がかかる金融機関も | ★★ | その銀行の預金・金融商品 |
| 生命保険の契約者代理 | 追加保険料・登録料0円の制度が多い | 原則0円 | ★ | その保険契約 |
| 生前贈与 | 0円~※税金等は別 | 原則0円 | ★★ | 贈与した財産 |
| 任意後見 | 基本実費約2万円~+専門家依頼なら別途 | 監督人 月1~2万円程度、資産が多ければ月2.5~3万円程度が一つの目安 | ★★★★ | 財産管理・法律行為を広くカバー |
| 家族信託 | 専門家依頼なら50万~100万円程度が民間相場の一例 | 固定費0円も可能。専門家等を付ければ別途 | ★★★★★ | 不動産・証券など継続管理が必要な財産 |
| 法定成年後見 | 裁判所実費は数千円~。鑑定や専門家依頼は別途 | 専門職後見人なら月2~6万円程度が一つの目安 | ★★★★★ | 判断能力低下後でも利用可能 |
※費用は財産額、地域、家庭裁判所、金融機関、契約内容、依頼する専門家などによって異なります。
どこまで対策すればいい?
私は、
すべての家庭が家族信託や任意後見まで準備する必要はない
と思っています。
例えば、
- 財産のほとんどが銀行預金
- 不動産の継続管理が必要ない
- 株式等の積極的な運用を続ける予定もない
のであれば、
銀行の代理人予約+生命保険の契約者代理
など、比較的低コストの対策だけでも大きなリスクを減らせる可能性があります。
一方、
- 賃貸不動産を持っている
- 将来自宅を売却する可能性がある
- 証券資産を継続的に管理したい
- 認知症後も柔軟に財産を管理・処分したい
という家庭では、
家族信託
を検討する意味が大きくなります。
また、
- 銀行
- 保険
- 不動産
- 施設入居
- その他の契約
など、本人自身に代わって幅広い法律行為まで任せたいのであれば、
任意後見
も候補になります。
逆に、
財産がシンプルで、家族が成年後見人として適切に管理できる家庭なら、必要になった後に法定後見を利用する
という選択肢もあります。
大切なのは、
「家族信託が一番いい」「成年後見は使わない方がいい」と制度だけで決めるのではなく、その家庭の財産内容や家族関係に合わせて選ぶこと
だと思います。
もう一つ忘れてはいけない「相続」
認知症対策を考えるときには、
相続についても2つの方向から考えておく必要があります。
一つは、
本人が将来「相続人になる」可能性。
もう一つは、
本人自身が将来亡くなったときの相続対策です。
① 認知症になった本人が「相続人になる」場合
例えば、
父:認知症
母:元気
という家庭で、母が先に亡くなったとします。
父と子どもが相続人になります。
父に遺産分割協議の内容を理解する判断能力がなければ、
父を除外して子どもだけで遺産分割協議をすることはできません。
その結果、
遺産分割のために成年後見制度等の利用が必要になる
可能性があります。
また、後見人が本人に代わって遺産分割を行う場合には、原則として本人の法定相続分を確保することが求められます。
このような家庭では、
元気な母が遺言を作っておく
という対策も重要になります。
② 自分自身の相続対策も、認知症になると難しくなる
もう一つ忘れてはいけないのが、
「自分が亡くなったときの相続をどうするか」
という問題です。
相続対策というと、
「まだ元気だから必要ない」
「もっと高齢になってから考えればいい」
と思われる方も多いかもしれません。
しかし、
相続対策は亡くなったときだけの問題ではありません。
その前に認知症などで判断能力が低下すれば、
- 遺言を新しく作る
- 生前贈与を行う
- 生命保険へ加入・見直しをする
- 不動産を売買・活用する
- 財産の組み替えを行う
といった対策が難しくなる可能性があります。
だからこそ、
「相続が近づいてから」ではなく、「まだ自分で判断できるうちに」考えておくこと
が大切です。
まとめ
大切なのは、
「認知症になったら考えればいい」と先送りしないことです。
判断能力を失った後では、新しく代理人予約をしたり、任意後見契約や家族信託契約を結んだりすることが難しくなります。
さらに、
遺言・生前贈与・生命保険・不動産などを使った相続対策も、できることが大きく限られてしまう可能性があります。
だからこそ、
「どんな財産があり、認知症になったら何に困るのか」
そして、
「自分が亡くなったとき、その財産を誰にどう残したいのか」
まで、まだ元気なうちに一度考えておく。
これが認知症による資産凍結対策だけでなく、相続対策という意味でも非常に大切だと思います。
※本記事は2026年9月時点の制度をもとに作成しています。銀行・生命保険会社・証券会社等の代理制度や対象商品、相続税・贈与税の取扱いは、契約内容や税制改正等によって変わる可能性があります。実際に利用する際には、各金融機関・保険会社、税理士・司法書士・弁護士等の専門家へ最新の内容をご確認ください。

1級FP 磯山裕樹