「NISAとiDeCo、どちらを先に始めた方がいいですか?」
これは、資産形成の相談でよく聞かれる質問です。
NISAもiDeCoも、税制優遇を受けながら資産形成ができる制度です。
そのため、
・どちらの方が得なのか
・どちらを優先すればいいのか
・両方やった方がいいのか
と迷う人も多いと思います。
結論からお伝えすると、iDeCoを優先してよいのは、次の3つすべてに当てはまる人です。
① 60歳前に使う可能性がない
② 所得控除のメリットが大きい
③ 退職金が少ない、または受け取り方を工夫できる
この3つすべてに当てはまるなら、iDeCoを検討しやすいです。
一方で、1つでも当てはまらない場合は、基本的にはNISAを優先する方が無理がありません。
この記事では、NISAとiDeCoの違いについて、制度の細かい説明ではなく、実際にどう使い分ければよいかに絞って、1級FPの視点でわかりやすく解説します。
目次
NISAとiDeCoの大きな違い
まず、NISAとiDeCoの違いを簡単に整理しておきます。
| 比較項目 | NISA | iDeCo |
|---|---|---|
| 主な目的 | 幅広い資産形成 | 老後資金づくり |
| 投資・拠出できる枠 | 生涯投資枠1,800万円 | 職業や勤務先の退職金制度により、月2.3万円〜7.5万円 |
| 積み立て時の所得控除 | なし | 掛金が全額所得控除 |
| 運用益 | 非課税 | 非課税 |
| 引き出し | いつでも売却可能 | 原則60歳まで引き出せない |
| 受け取り時の税金 | 非課税 | 課税される場合がある |
| 手数料 | 金融機関による | 加入時・運用中・受取時に手数料あり |
| 向いているお金 | 60歳前に使う可能性があるお金 | 60歳以降まで使わない老後資金 |
※iDeCoの拠出限度額は、職業や勤務先の企業年金制度によって異なります。上記は2027年1月以降の制度改正を前提にした目安です。
NISAとiDeCoは3つの質問で考える
NISAとiDeCoの使い分けで大切なのは、次の3つです。
| 質問 | NISAを優先しやすいケース | iDeCoを検討しやすいケース |
|---|---|---|
| ① このお金は60歳前に使う可能性があるか | ある | ない |
| ② 所得控除のメリットがあるか | 小さい | 大きい |
| ③ 退職金が多いか | 多い | 少ない・ない |
順番に見ていきましょう。
質問① このお金は60歳前に使う可能性があるか
最初に確認したいのは、
「このお金は60歳前に使う可能性があるか」です。
60歳前に使う可能性があるなら、NISAを優先しましょう。
たとえば、次のようなお金です。
・教育費
・住宅購入資金
・車の買い替え
・独立資金
・親の介護費用
・家族旅行
・使う時期がまだ決まっていないお金
これらのお金は、必要なタイミングが60歳以降とは限りません。
iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、途中で使う可能性があるお金には向いていません。
一方、NISAであれば、必要になったときに売却して使うことができます。
もちろん、投資なので元本割れの可能性はあります。
ただ、iDeCoのように制度上引き出せないわけではありません。
「老後資金かもしれないけれど、途中で使うかもしれない」
このようなお金は、NISAで準備する方が家計の自由度を保ちやすいです。
反対に、次のようなお金であれば、iDeCoを検討できます。
・このお金は60歳まで使わない
・老後資金として残しておきたい
・途中で使わない仕組みにしたい
iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、途中で使えないデメリットがあります。
しかし見方を変えると、老後資金を途中で使わずに残しておきやすい仕組みともいえます。
NISAは自由に売却できる反面、途中で使ってしまう可能性があります。
老後資金として強制的に残したい場合は、iDeCoが選択肢になります。
質問② 所得控除のメリットがあるか
次に確認したいのは、
「所得控除のメリットがあるか」です。
iDeCoは、掛金が全額所得控除になります。
ここが、NISAにはない大きなメリットです。
NISAは運用益が非課税になる制度ですが、積み立てた金額が所得控除になるわけではありません。
一方、iDeCoは運用益が非課税になるだけでなく、掛金が全額所得控除になります。
たとえば、毎月2万円、年間24万円をiDeCoに拠出した場合を考えます。
所得税率10%、住民税10%の人であれば、年間約4.8万円の税負担軽減が期待できます。ざっくり言うと、会社員なら年収500万円前後から600万円台くらいの人をイメージしています。
所得税率が高い人であれば、さらにメリットは大きくなります。
そのため、所得税・住民税をしっかり払っている人は、iDeCoのメリットを活かしやすいです。

一方で、所得控除のメリットが小さい人もいます。
たとえば、次のような人です。
・専業主婦・主夫などで所得がない人
・収入が少なく、所得税・住民税の負担が少ない人
・住宅ローン控除などで税負担が少ない人
・独立直後などで所得が一時的に少ない人
このような場合、iDeCoの大きなメリットである所得控除を活かしにくいです。
iDeCoは原則60歳まで引き出せないうえ、口座管理手数料もかかります。
そのため、所得税・住民税をあまり払っていない人は、まずNISAを優先しましょう。
質問③ 退職金が多いか
3つ目に確認したいのは、
「退職金が多いか」です。
ここは、iDeCoを考えるうえで見落としやすいポイントです。
iDeCoは、積み立てている間の節税メリットが大きい制度です。
ただし、受け取るときに完全に非課税になる制度ではありません。
会社の退職金が多い人は、iDeCoの受け取り時に税金がかかる可能性があります。
一方、退職金が少ない人や退職金がない人は、iDeCoを活用しやすい場合があります。
いきなり細かい税金の話をするとわかりにくいので、まずは具体例で見てみましょう。
なお、ここで紹介する具体例は、現在の退職所得控除の仕組みを前提にしたものです。
税制は将来変わる可能性があるため、実際にiDeCoを受け取るときは、その時点の制度で確認することが大切です。

出典:iDeCoパンフレット(厚生労働省)
具体例: 具体例:退職金2,060万円の会社員が、毎月5万円を30年間積み立てる場合
次の条件で、NISAとiDeCoを比較します。
・積立額:毎月5万円
・積立期間:30歳から60歳までの30年間
・運用利回り:年5%
・元本:1,800万円
・60歳時点の運用額:約4,161万円
・運用益:約2,361万円
・60歳時点の退職金:2,060万円
・勤続年数:22歳から60歳までの38年
退職金について
22歳から60歳まで38年間勤務した場合、退職所得控除は次のようになります。
800万円+70万円×18年=2,060万円
退職金が2,060万円であれば、退職所得控除2,060万円の範囲内におさまります。
そのため、この例では退職金に税金はかかりません。
また、毎月5万円を30年間、年5%で運用できた場合、60歳時点の運用額は約4,161万円になります。
元本は1,800万円、運用益は約2,361万円です。
この場合、NISAとiDeCoで、60歳時点の手取りがどう変わるかを見てみましょう。
なお、ここでは計算をわかりやすくするため、手数料や細かな控除などは考慮していません。
NISAで運用した場合
NISAで運用した場合、NISAの投資枠内で得た運用益は非課税です。
そのため、約4,161万円をそのまま受け取ることができます。
退職金も、退職所得控除の範囲内におさまるため税金はかかりません。
結果として、60歳時点で手元に残る金額は次のイメージです。
・NISA:約4,161万円
・退職金:2,060万円
・税金:0円
手元に残る金額:約6,221万円
iDeCoで運用した場合
次に、iDeCoで同じように毎月5万円、30年間積み立てた場合を考えます。
iDeCoの場合、積み立てている間は掛金が全額所得控除になります。
毎月5万円なら、年間60万円です。
仮に、所得税率10%、住民税10%の人であれば、年間約12万円の税負担軽減が期待できます。
30年間続けると、単純計算で約360万円の税負担軽減です。
さらに、この税負担軽減分を毎月1万円ずつNISAで運用し、年5%で30年間運用できたとすると、60歳時点で約832万円になります。
ここは、NISAにはないiDeCoの大きなメリットです。
一方で、iDeCoは受け取るときに税金がかかる場合があります。
今回の例では、退職金2,060万円とiDeCo約4,161万円を同じ年に一時金で受け取るとします。
退職所得控除は2,060万円なので、退職金だけで控除枠を使い切る形になります。
そのため、iDeCo部分については、次のように退職所得が計算されます。
約4,161万円×1/2=約2,081万円
この約2,081万円に対して、所得税・住民税がかかります。
概算では、税負担は約772万円です。
結果として、60歳時点で手元に残る金額は次のイメージです。
・iDeCo:約4,161万円
・退職金:2,060万円
・税金:約772万円
・節税分のNISA運用額:約832万円
手元に残る金額:約6,281万円
比較結果
比較すると、次のようになります。
| 項目 | NISA | iDeCo |
|---|---|---|
| 運用額 | 約4,161万円 | 約4,161万円 |
| 退職金 | 2,060万円 | 2,060万円 |
| 受け取り時の税金 | 0円 | 約772万円 |
| 節税分のNISA運用額 | なし | 約832万円 |
| 手元に残る金額 | 約6,221万円 | 約6,281万円 |
この前提では、節税分をNISAで運用した場合、iDeCoの方が約60万円多くなる計算です。
ただし、この差は30年間で約60万円です。
1年あたりにすると、約2万円の差です。
60歳まで引き出せないことと引き換えに、この約60万円の差を大きいと見るか、小さいと見るかは人によって変わります。
退職金がさらに多い場合や、運用利回りが想定より高くなり、iDeCoの受取額が大きくなった場合は、受け取り時の税負担も重くなります。
今回の前提では、退職金が約2,400万円以上になる場合や、運用利回りがおおむね年6.3%以上になる場合は、NISAの方が有利になる計算です。
運用がうまくいくほど資産は増えますが、iDeCoの場合は受け取り時に課税対象となる金額も大きくなります。
そのため、退職金が多い人や、運用成果が大きくなった場合は、「iDeCoの方が節税できるから必ず有利」とは言い切れません。特に退職金がある会社員は、入口の節税メリットだけで判断するのではなく、退職金とiDeCoを合わせた出口の税金まで確認することが大切です。
そのうえで、60歳前にも使える自由度を重視するなら、NISAを優先する判断も十分にあります。
【私の考え】NISAとiDeCoをどう使いこなす?
ここまで、NISAとiDeCoの使い分けについて、3つの質問で見てきました。
改めて整理すると、次のようになります。
| 質問 | NISAを優先しやすいケース | iDeCoを検討しやすいケース |
|---|---|---|
| ① このお金は60歳前に使う可能性があるか | ある | ない |
| ② 所得控除のメリットがあるか | 小さい | 大きい |
| ③ 退職金が多いか | 多い | 少ない・ない |
私の考えでは、この3つすべてがiDeCo向きに当てはまる場合は、iDeCoを積極的に検討してよいと思います。
つまり、次のような人です。
・60歳前に使う可能性がない
・所得控除のメリットが大きい
・退職金が少ない、または退職金がない
一方で、次のどれか1つでも当てはまる場合は、基本的にはNISAを優先する方が無理がありません。
・60歳前に使う可能性がある
・所得控除のメリットが小さい
・退職金が多く、受け取り時の税負担が気になる
会社員はiDeCoの前に企業型DC・マッチング拠出も確認する
会社員の場合は、iDeCoを始める前に、勤務先の企業型DCで選べる商品と手数料を確認しましょう。
企業型DCの上乗せで低コスト商品を選べるなら、iDeCoよりマッチング拠出が使いやすい場合があります。
一方で、企業型DCの商品コストが高く、iDeCoで低コスト商品を選べる場合は、iDeCoを検討する余地があります。
企業型DCやマッチング拠出については、別の記事で詳しく解説しています。該当する人は、そちらも確認してみてください。
3つすべて当てはまらなくても、iDeCoを一部使う選択肢はある
ただし、3つすべてが完全に当てはまらないと、iDeCoを使ってはいけないという意味ではありません。
教育費の準備のめどが立ちそうな人
たとえば、教育費がまだ十分に準備できていない家庭でも、
・夫婦ともに収入が安定している
・今後の収入から教育費のめどが立つ
・毎月の積立に余裕がある
という場合は、NISAを中心にしながら、iDeCoを一部活用する考え方もあります。
今は所得が少ない個人事業主
また、独立直後で今は所得が少ない個人事業主でも、将来収入が増えていく見込みがあるなら、月5,000円など少額からiDeCoを始めておく選択肢があります。
個人事業主には会社員のような退職金がないため、将来iDeCoを一時金で受け取るときに退職所得控除を活用しやすいという面もあります。
iDeCoを一時金で受け取るときの退職所得控除は、拠出していた期間によって変わるからです。
たとえば、
・拠出期間10年:退職所得控除400万円
・拠出期間20年:退職所得控除800万円
というイメージです。
今は月5,000円だけでも、早めに始めて拠出期間を長くしておくことで、将来まとまった金額をiDeCoで準備できるようになったときに、退職所得控除の枠が大きくなります。
退職金の受け取り方を工夫できる人
また、退職金が多い人でも、受け取り方を工夫できる人はiDeCoを活用できる場合があります。
受け取り方については、別の記事で詳しく解説しています。
毎月5万円を積み立てる場合の考え方
たとえば、毎月5万円を積み立てられる場合でも、正解は一つではありません。
| 状況 | 使い分けの例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 60歳前に使う可能性がある | NISA 5万円 | 教育費、住宅、車、転職、独立などに使う可能性があるため |
| 教育費などのめどが立ち、所得控除メリットも大きい | NISA 3万円、iDeCo 2万円 | NISAの自由度を残しつつ、iDeCoも活用する |
| 60歳まで使わない老後資金で、所得控除メリットも大きく、退職金も少ない | iDeCo 5万円 | 3つの条件がそろっているため、iDeCoを活用しやすい |
| 投資はしたくないが、所得控除を活かしたい | iDeCoを定期預金型で運用 | 銀行預金の一部をiDeCoに移すイメージ。ただし60歳まで引き出せない点に注意 |
このように、同じ毎月5万円でも、家計の状況によって使い分けは変わります。
NISAを中心にしながら、iDeCoを一部使う。
iDeCoを活用しながら、NISAで自由に使えるお金も残す。
このように、自分の家庭に合わせて組み合わせることもできます。
年代や職業よりも、3つの質問で考える
ここまで見てきたように、NISAとiDeCoの使い分けは、年齢や職業だけでは決められません。
大切なのは、次の3つです。
・このお金を60歳前に使う可能性があるか
・所得控除のメリットを活かせるか
・退職金と合わせた出口の税金はどうなるか
NISAとiDeCoの使い分けでは、年代や職業で分けて説明されることもあります。
たとえば、
・20代はNISA
・50代はiDeCo
・専業主婦・主夫はNISAを優先しやすい
・自営業者はiDeCoを活用しやすい
といった考え方です。
もちろん、年代や職業は判断材料の一つです。
しかし、私の考えでは、年代や職業だけで決めるのはおすすめしません。
同じ40代でも、
・教育費がこれから大きくかかる家庭
・教育費のめどが立っている家庭
では、答えが変わります。
同じ会社員でも、
・退職金が多い人
・退職金がほとんどない人
では、iDeCoの向き不向きが変わります。
同じ自営業者でも、
・収入が安定している人
・事業資金を手元に残しておいた方がよい人
では、優先順位が変わります。
そのため、
「何歳だからNISA」
「自営業だからiDeCo」
と決めるのではなく、まずは3つの質問で考えることが大切です。

1級FP 磯山裕樹