「50代後半になりもうすぐ退職です。退職金の受け取りとiDeCoの受け取り方を間違えると税金が大きく違ってくると聞きました。iDeCoの受け取り方について教えていただけませんか?」

書籍「夫婦貯金年150万円の法則」の読者から、P142~144の『なぜiDeCoやふるさと納税はお得なの?』の部分について、質問いただきましたので解説していきます。

iDeCoは簡単に活用できるのですが、受け取り方を間違えると数百万レベルで税金が多くかかる可能性があることを知っていますか?
今回は、「iDeCoの受け取り方」を具体例を用いてお伝えします。
目次
iDeCoの3つの受け取り方
iDeCoの受け取りは、60歳から75歳の間のお好きなときに受け取りを開始することができ、受け取り方は3つの選択肢があります。
①一時金(退職所得控除が利用できる)
②年金(公的年金等控除が利用できる)
③一時金と年金の併用(退職所得控除と公的年金等控除が利用できる)
ポイントは、受け取り時の税負担を0にする制度ではないことです。ここまでの受け取りであれば税金かかりませんよ、ここからは税金かかりますよというラインが設けられています。

出典:iDeCoパンフレット(厚生労働省)
一時金受け取り
一時金受け取りの場合の税金は、次の計算をします。

ポイント①退職所得
退職所得は退職に起因して受け取る一時金を合算した金額になります。
●退職金
●iDeCo(個人型確定拠出年金)
●企業型確定拠出年金
●確定給付企業年金
●小規模企業共済
●中小企業退職金共済
など
ポイント②退職所得控除
退職所得控除額は勤続年数で決まります。
退職金の場合、勤続期間です。
企業型確定拠出年金、iDeCoなどの場合、算定基礎期間(支払金額の計算の基礎となった期間)になります。掛金を納付した期間が対象で、運用指図者(掛金を納付せず運用だけ継続する)期間は含まれないことに注意しましょう。

複数の退職に関わる一時金の受け取りがある場合、受け取りのタイミングにより勤続年数の調整があります。5年ルール、19年ルールなど後ほど具体例で解説します。
ポイント③分離課税
ほかの所得とは別々に計算される分離課税です。つまり、給与などの他の収入とは別に退職所得のみ計算します。

退職金とiDeCoを同時に受け取る場合
たとえば、次の例で見てみましょう。

退職に関わって受け取る一時金が複数ある場合、退職所得は合算します。退職金2200万円、iDeCo600万円を足して2800万円です。
退職所得控除額の計算は、もっとも長い期間により勤続年数の計算を行い、もっとも長い期間と重複していない勤続期間があれば、期間に加えることができます。この場合、勤続年数35年とiDeCoの積み立て15年はすべて重複期間なので、退職所得控除は35年で計算します。
●退職所得:2800万円(退職金2200万円、iDeCo600万円を60歳で受け取る)
●控除で使える年数:35年(重複して退職所得控除を使えない)
退職所得控除を計算すると、40万円×20年+70万円×15年=1850万円となります。つまり、退職所得が1850万円以下であれば税金がかかりません。

「(退職所得-退職所得控除額)×1/2×税率」の式にあてはめると、(2800万円ー1850万円)×1/2×税率となるので、475万円×税率となります。次に、所得税や住民税の税率を見て計算してみましょう。

所得税
所得税:4,750,000円×20%-427,500円=522,500円
復興特別所得税:552,500円×2.1%=10,972円
【合計】533,472円

※国税庁のHPより
住民税
住民税は、一律10%です。
住民税:4,750,000円×10%=475,000円
合計
所得税:533,472円
住民税:475,000円
合計すると約100万円になります。つまり、2800万円の退職所得に対して税金が約100万円しかかかりません。所得に対して3.5%の税金なので、退職所得はからり有利な受け取り方になりますね。

退職金→iDeCoの順に受け取る場合
次に、60歳で退職金をもらって、iDeCoを65歳まで拠出して受け取る場合はどうなるでしょうか?
退職金→iDeCoの順に受け取る場合、退職金を受け取ってから19年空けて確定拠出年金(iDeCo・企業型確定拠出年金)を受け取ると、勤続年数の調整がなくなり、退職金、確定拠出年金それぞれの控除をフル活用できます。これを「19年ルール」といいます。確定拠出年金は75歳までに受け取らないといけないので、55歳より前に退職金を受け取る必要があります。

今回のケースの場合、退職金を受け取ってから19年以内に確定拠出年金の受け取りなので重複している期間は控除にいれることはできません。ただし、重複していない60歳~65歳の5年分は控除にいれることができます。

●退職所得:退職金2200万円(60歳)、iDeCo600万円(65歳)
●控除で使える年数:35年(重複している期間は退職所得控除を使えない)+5年(iDeCo単独)
まず、60歳で受け取る退職金の計算をしてみましょう。
退職所得控除は1850万円(40万円×20年+70万円×15年)なので、「(退職所得-退職所得控除額)×1/2×税率」の式にあてはめると、(2200万円ー1850万円)×1/2×税率となるので、175万円×税率となります。次に、所得税や住民税の税率を見て計算してみましょう。

所得税
所得税:1,750,000円×5%=87,500円
復興特別所得税:87,500円×2.1%=1,837円
【合計】89,337円

※国税庁のHPより
住民税
住民税は、一律10%です。
住民税:1,750,000円×10%=175,000円
合計
所得税:89,337円
住民税:175,000円
合計すると約26.5万円になります。
次に、65歳で受けとるときiDeCoの退職所得控除は5年使えるので、40万円×5年=200万円となります。「(退職所得-退職所得控除額×1/2×税率」の式にあてはめると、(600万円ー200万円)×1/2×税率となるので、200万円×税率となります。次に、所得税や住民税の税率を見て計算してみましょう。

所得税
所得税:2,000,000円×10%-97,500円=102,500円
復興特別所得税:102,500円×2.1%=2,152円
【合計】104,652円

※国税庁のHPより
住民税
住民税は、一律10%です。
住民税:2,000,000円×10%=200,000円
合計
所得税:104,652円
住民税:200,000円
合計すると約30.5万円になります。
つまり、60歳で退職金を受け取るときに26.5万円、65歳でiDeCoを受け取るときに30.5万円、合計で約57万円の税負担となります。iDeCoを5年継続して受け取り方を変えると60歳で同時に受け取るより約43万円税負担が少なくなります。

iDeCo→退職金の順に受け取る場合
では、60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る場合はどうでしょうか?

確定拠出年金を先に受け取り、退職金を後に受け取る場合、2025年12月までは5年の期間が空いていれば、それぞれの退職所得控除をフル活用することができ、「5年ルール」と言われています。
このケースの場合、5年期間が空いているので、iDeCo、退職金それぞれの退職所得控除をフル活用することができます。先に受け取るiDeCoについては、拠出年数15年なので600万円(40万円×15年)の退職所得控除が使え、iDeCoから受け取る600万円の税負担は0です。後に受けとる退職金ついては、勤続年数40年の退職所得控除は2200万円(40万円×20年+70万円×20年)なので退職金2200万円についても税負担は0になります。

ただし、2026年1月から10年の期間が空いていれば活用できる「10年ルール」に変わります。
2026年1月以降の受け取りの場合は、iDeCoの部分の税負担は0ですが、退職金は、勤続年数40年のうち、iDeCoの拠出年数と重複する期間分退職控除額が差し引かれます。退職所得控除は2200万円(40万円×20年+70万円×20年)ー600万円=1600万円になります。「(退職所得-退職所得控除額×1/2×税率」の式にあてはめると、(2200万円ー1600万円)×1/2×税率となるので、300万円×税率となり、税負担が発生します。

税負担を回避するためには、iDeCoの受け取りは60歳以降になるので、60歳でiDeCo受け取っても、70歳以降で退職金の受け取りとなります。退職金の受け取り時期を自分でコントロールすることは難しいので、10年ルールを活用できる人は少ないかもしれません。
3つのケースについて、税負担の違いを見てきました。

①退職金とiDeCoを60歳で同時に受け取る→約100万円
②60歳で退職金をもらって、iDeCoを65歳まで拠出して受け取る→約57万円
③60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る→0円
同じ金額の退職金やiDeCoを受け取るとしても、受け取り方によって税負担が100万円も変わってきます。退職所得控除を超えた退職に関わる一時金を受け取る人は、働き方やiDeCoの出口まで考えましょう。
分割受け取り
iDeCoを分割で受け取る場合は、公的年金等控除が利用できます。公的年金等控除とは、老後に受け取る年金に対してかかる税金を軽減するものです。「え!?老後の年金って税金取られるの?」と思った人、ある一定ラインを超えると税金がかかります。その一定ラインが公的年金控除です。

公的年金等とは、公的年金や分割受け取りにしたiDeCo、小規模共済、中退共などを合算した金額です。生命保険の年金などは公的年金等には含まれません。
公的年金等から公的年金等控除を引いて、その後、給料や事業などの他の所得と合算して、基礎控除、社会保険料控除、扶養控除、配偶者控除などの所得控除を引いて税金を計算していきます。一時金で受け取る退職所得との違いは、その他の所得と合算して計算がされることです。
公的年金等控除の額
公的年金等控除の額は、65歳未満か以上かで変わります。
65歳未満:年額60万円までの年金が非課税
65歳以上:年額110万円までの年金が非課税

※国税庁HPより
65歳以上から受給できる国民年金は満額で約80万円なので、iDeCoの受け取り額が年額30万円未満にすれば、非課税の範囲の110万円におさまります。自営業、フリーランス、専業主婦(夫)の人は使えるかもしれません。

しかし、厚生年金に加入している会社員や公務員の人は、年金の平均が約170万円なので、iDeCoを分割で受け取ると課税される人が多いと思います。
具体例
年齢:65歳以上
公的年金のみの収入
公的年金等の収入金額の合計額:350万円
65歳以上、公的年金等の金額は330万円~410万円の間ですので、公的年金等に係る雑所得の金額は次のようになります。
3,500,000円×75%-275,000円=2,350,000円

公的年金等に係る雑所得の金額は2,350,000円になり、他の所得もないため、ここから所得控除(基礎控除、社会保険料控除、扶養控除、配偶者控除など)を引いた金額に対して税金を計算します。

分割受け取りの3つのポイント
分割受け取りする場合のポイントは次の3点です。
①公的年金や他の所得、所得控除によって納める税額が変わる
iDeCoを分割で受け取る場合の雑所得は、他の所得と合計して税額を計算します。そのため、公的年金や他の所得がどのくらいあるか、所得控除がどのくらいあるかによって納める税額が変わります。
②手数料がかかる
iDeCoの受け取りには、手数料がかかります。
●給付手数料:1回440円
●口座管理手数料:毎月66円
たとえば、20年間で毎月受け取りした場合、506円×12か月×20年=約12万になります。
一時金で受け取る場合は、口座管理手数料は不要、給付手数料も1回だけしかかかりません。
③給付中も非課税で運用を継続してくれる
税金や給付手数料のことを考えると必ずも有利とは言えない分割受け取りですが、給付中も運用を継続してくれるので、非課税口座で運用しながら取り崩しができることはメリットです。
まとめ
iDeCoの受け取り方は3つの選択肢があります。
①一時金(退職所得控除が利用できる)
②年金(公的年金等控除が利用できる)
③一時金と年金の併用(退職所得控除と公的年金等控除が利用できる)
退職所得控除の範囲内であれば、一時金で受け取る。超えた場合は、残りを一時金または分割で受け取るかを、勤務先の退職金や公的年金、その他の収入状況、いつそのお金を使うかなど、さまざまな要素を総合的に考えて決めていきましょう。


















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