自動車保険を見直すときに、対人賠償責任保険や対物賠償責任保険は分かりやすい一方で、少し判断が難しいのが「人身傷害保険」です。
人身傷害保険とは、自動車事故で自分や同乗者がケガをしたり、死亡・後遺障害を負ったりした場合に備える補償です。
人身傷害保険が何に備える補償なのかを理解したうえで、自分に必要かどうかを判断していきましょう。
目次
人身傷害保険とは?
人身傷害保険は、自動車事故で自分や同乗者がケガをした場合などに備える補償です。

対人賠償責任保険との違い
人身傷害保険を考えるときは、対人賠償責任保険との違いを整理しておくと分かりやすいです。
| 補償 | 何に備える保険? | 主な対象 |
|---|---|---|
| 対人賠償責任保険 | 他人にケガをさせたときの賠償 | 相手の車の人、歩行者、家族以外の同乗者など |
| 人身傷害保険 | 自分側のケガ・死亡・後遺障害など | 自分、配偶者、子ども、契約車両に乗っている人など |
対人賠償責任保険は、相手の車の人や歩行者、家族以外の同乗者など、他人にケガをさせてしまった場合の賠償に備える保険です。
一方で、運転者本人のケガは、対人賠償責任保険の対象になりません。
また、配偶者や子どもなど一定の家族についても、対人賠償責任保険では補償されないケースがあります。
そのため、人身傷害保険をつけるかどうかは、
「自分自身や家族のケガ、死亡、後遺障害、休業損害に備えたいかどうか」
で判断する補償だと考えると分かりやすいです。
人身傷害保険の4つの特徴
1. 自分の過失分にも備えられる
交通事故では、事故の状況によって過失割合が決まります。
たとえば、損害額が1,000万円で、過失割合が自分:相手=30:70だった場合、相手から受け取れる賠償金は700万円です。
残りの300万円は自分の過失分となるため、相手から受け取ることはできません。

人身傷害保険があれば、この自分の過失分も含めて補償の対象になります。
つまり、自分にも過失がある事故で、相手から十分な賠償を受けられない場合に備えられる点が、人身傷害保険の大きな特徴です。
ただし、人身傷害保険に入っていれば、自分が考える損害額がそのまま全額支払われるわけではありません。
支払われる金額は、契約している保険金額を上限に、保険会社が定める基準に沿って計算されます。
2. 単独事故でも対象になる
人身傷害保険は、相手がいる事故だけでなく、単独事故でも対象になることがあります。
たとえば、自分が単独事故を起こして大ケガをした場合、相手がいないため、相手の対人賠償責任保険から補償を受けることはできません。
このような場合に、自分自身の治療費や休業損害、後遺障害などに備える補償として、人身傷害保険が関係してきます。
ただし、単独事故でケガをした場合でも、軽いケガや短期間の通院であれば、健康保険や医療保険などで一定程度対応できる場合もあります。
そのため、単独事故に備えるためだけに必ず人身傷害保険が必要というより、長期の休業や後遺障害など、大きな事故まで自動車保険で備えたいかどうかで判断することが大切です。
3. 示談前に受け取れる場合がある
交通事故では、相手との示談が成立するまでに数か月から1年以上かかることもあります。
相手との示談が終わるまで保険金を受け取れないと、治療費や通院費、仕事を休んだことによる収入減を、いったん自分で負担しなければならない場合があります。
人身傷害保険があれば、相手との示談成立を待たずに、自分の保険会社から保険金を受け取れる場合があります。
そのため、貯蓄が少ない家庭や、事故で仕事を休むと収入が減りやすい自営業・個人事業主にとっては、安心材料になります。
4. 人身傷害保険だけの使用なら、通常は等級ダウンしない
対人賠償責任保険を使うような事故は、通常、3等級ダウン事故として扱われます。
たとえば、相手にケガをさせて対人賠償責任保険を使った場合、翌年の等級が下がり、3年間は保険料が高くなります。
一方で、人身傷害保険だけを使った場合は、通常はノーカウント事故として扱われ、等級ダウンの対象にはなりません。
つまり、自分や家族のケガについて人身傷害保険から保険金を受け取っても、それだけで翌年の保険料が上がるわけではありません。
ただし、同じ事故で車両保険や対物賠償責任保険などを使った場合は、そちらの保険使用によって等級が下がることがあります。
そのため、ここでは「人身傷害保険だけを使った場合」と考えてください。
人身傷害保険で備えられること
ここまでの特徴を整理すると、人身傷害保険で備えられるのは、主に次のようなケースです。
| 備えられるケース | 内容 |
|---|---|
| 自分にも過失がある事故 | 相手から受け取れない自分の過失分に備えられる |
| 単独事故 | 相手がいない事故で、自分や家族がケガをした場合に備えられる |
| 示談が長引く場合 | 示談成立前に、自分の保険会社から受け取れる場合がある |
| 自分や家族の死亡・後遺障害 | 自動車事故による大きな損害に備えられる |
| 休業損害 | 事故で仕事を休んだことによる収入減に備えられる |
このように、人身傷害保険は、相手への賠償ではなく、自動車事故によって自分や家族に損害が出た場合に備える補償です。
よくある質問
Q1. 医療保険があれば、人身傷害保険はいらないのでは?
人身傷害保険は、治療費だけを補償するものではありません。
治療費のほか、休業損害、精神的損害、後遺障害が残った場合の逸失利益なども補償の対象になります。
休業損害とは、事故で仕事を休んだことによる収入減のことです。
逸失利益とは、後遺障害などによって、将来得られるはずだった収入が減ってしまうことをいいます。
そのため、事故でしばらく働けなくなった場合や、後遺障害が残って将来の収入に影響が出た場合には、人身傷害保険が役に立つ可能性があります。
Q2. 車外補償は必要?
人身傷害保険には、契約している車に乗っているときだけを補償するタイプと、歩行中・自転車に乗っているとき・他人の車に同乗中の自動車事故まで補償範囲を広げられるタイプがあります。
| タイプ | 補償される範囲 |
|---|---|
| 車内のみ補償 | 契約している車に乗っているときの事故 |
| 車外補償あり | 契約している車に乗っているときに加えて、歩行中・自転車に乗っているとき・他人の車に同乗中の自動車事故など |
補償範囲は保険会社や契約内容によって異なります。車外補償があると、たとえば子どもが歩行中に車にはねられた場合、自転車に乗っていて車と接触した場合、友人の車に同乗中に事故にあった場合なども対象になることがあります。特に、
- 自分側にも過失がある場合
- 示談が長引く場合
などには、自分の保険から受け取れる可能性がある点がメリットです。歩行中や自転車に乗っているときの事故まで備えられるメリットはありますが、病気や日常生活中のケガ、スポーツ中のケガまで広く備えられるわけではありません。
車外補償は、
「自動車事故に限って、契約している車に乗っていないときまで自分の保険で備えたいか」
を考える補償だと思います。
Q3. 補償金額はいくらにする?
人身傷害保険の補償金額は、3,000万円、5,000万円、1億円、無制限などから選べます。
死亡や後遺障害など大きな事故まで考えると、補償金額は大きい方が安心です。
ただし、補償金額を大きくすると、保険料も高くなる場合があります。
そのため、補償金額を考えるときは、3,000万円、5,000万円、1億円、無制限などで、実際にどのくらい保険料が変わるのかを確認することが大切です。
たとえば、同じ条件で人身傷害保険の補償金額を変えて見積もりを取ると、次のような保険料差になるケースがありました。
| 人身傷害保険の補償金額 | 年間保険料 | 3,000万円との差額 | 月あたりの差額 |
|---|---|---|---|
| 3,000万円 | 75,910円 | - | - |
| 1億円 | 76,150円 | +240円 | 約20円 |
| 無制限 | 76,170円 | +260円 | 約22円 |
この例では、3,000万円から1億円にしても年間保険料の差は240円、無制限にしても年間260円の差でした。
今回の見積例のように、3,000万円と無制限で年間数百円程度しか変わらないのであれば、あえて3,000万円に抑えるよりも、無制限を選ぶ方が安心感は大きいです。
一方で、保険会社や契約条件によっては、無制限にすると保険料が大きく上がる場合もあります。
その場合は、3,000万円や5,000万円などで考える選択肢もあります。
大切なのは、補償金額だけを見て判断するのではなく、
- 3,000万円にした場合の保険料
- 1億円にした場合の保険料
- 無制限にした場合の保険料
を比較したうえで、保険料差に対して納得できる補償金額を選ぶことです。
人身傷害保険は、軽いケガのためだけに考える補償というより、自動車事故による死亡や後遺障害、長期の休業など、大きな損害に備える意味合いが強い補償です。
そのため、保険料差が小さいのであれば、補償金額を大きめにしておくという判断も十分考えられます。
まとめ
人身傷害保険は、人によって判断する補償人身傷害保険は、自動車事故で自分自身や家族など、自分側のケガ・死亡・後遺障害・休業損害に備える補償です。
特に、
- 自分にも過失がある事故で、相手から十分な賠償を受けられない場合
- 単独事故で、自分や家族がケガをした場合
- 示談が長引き、治療費や休業損害の立替えが必要になる場合
- 自動車事故による死亡・後遺障害に備えたい場合
に、自分の自動車保険で備えたいかどうかが判断ポイントになります。
一方で、軽いケガであれば医療保険などで対応できる場合もあります。
そのため、人身傷害保険は、全員が必ずつけるべき補償というより、
「自動車事故に限って、自分側の過失分、単独事故、示談前の資金繰り、死亡・後遺障害に備えたいか」
で判断する補償だと考えています。

1級FP 磯山裕樹